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月面電波望遠鏡でダークマターの正体に迫るには

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 宇宙初期のダークマターの分布や水素ガスの状態を理論計算で精密に再現し、当時の水素から放出された電波に、ダークマターの特性を示す"指紋"が刻み込まれていることを解明しました。月面など大気圏外に電波天文台を設置し、全天から届くこの電波を観測すれば、ダークマターの正体に迫れます。

 私たちの宇宙は138億年前にビッグバンと呼ばれる灼熱の状態で誕生しました。その後、宇宙はいったん暗闇にとざされ、光輝く天体が誕生するまで「暗黒の時代」が続きます。暗黒時代の宇宙には、ダークマターとうっすらとした水素ガスが漂っていたと考えられています。まだ観測はされていませんが、このうっすらと漂っていた水素の原子は、その微細構造により、波長約21cmの微弱な電波(水素21cm線)を放出することが知られています。その微弱な電波を捉えることができれば、宇宙の暗黒時代の様子や宇宙の成り立ちの解明につながります。

 本研究では、暗黒時代に放たれた水素21cm線が現在、どのような強度と周波数で観測されるかを、標準宇宙モデルに基づきシミュレーションしました。標準宇宙モデルは、宇宙の加速度的膨張を引き起こすダークエネルギーと、銀河や大規模構造の形成をつかさどる謎の物質「ダークマター」を宇宙の主要な構成要素としています。そして、コンピュータ上に再現された水素ガスの温度や密度の詳細な情報をもとに、全天から地球に届く電波(グローバルシグナル)を正確に計算しました。

 その結果、グローバルシグナルには電波輝度温度に換算して1ミリケルビン(1000分の1度)程度の特徴的な周波数変動が現れること、さらにはダークマターがどのような性質のものであるかによってその変動具合に差が生じることが初めて明らかになりました。このため、数十メガヘルツ付近の広い周波数帯でグローバルシグナルを観測すれば、ダークマターがどれくらい"冷たい"のか、すなわちダークマターの質量や速度の乱雑さといった性質を測定することができます。

 本研究の成果をもとにすれば、地球の大気圏外、例えば我が国が構想する月面天文台で宇宙電波を観測することで、ダークマターの正体に迫ることができます。

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プレスリリース

研究代表者

365体育投注計算科学研究センター(CCS)
Hyunbae Park 研究員

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)
吉田 直紀 特任教授

掲載論文

【題名】
The Signature of Sub-Galactic Dark Matter Clumping in the Global 21-cm Signal of Hydrogen
(水素21cm線のグローバルシグナルに現れるダークマターの密度揺らぎの痕跡)
【掲載誌】
Nature Astronomy
【DOI】
10.1038/s41550-025-02637-0

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